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和歌山地方裁判所 昭和26年(ワ)160号 判決 1957年4月08日

原告

加納徳義

被告

加納徳寿

外二名

主文

被告加納徳寿及同南章子は各自原告に対し金五万四千百五十六円及び昭和二十六年五月二十六日以降完済に至る迄年五分の割合による金員を支払へ

原告の被告加納寿美子に対する請求並被告加納徳寿及同南章子に対するその余の請求は棄却する

訴訟費用は之を十分しその一を被告加納徳寿及南章子の負担としその余は原告の負担とする

本判決は第一項に限り原告に於て各被告に対し夫々金二万円の担保を提供するときは仮に執行することが出来る

事実

(省略)

理由

先づ原告主張事実中、不動産の点について判断する。

公文書である判決謄本甲第一号の一甲第二号証の一によれば原告は被告徳寿及同南章子との関係に於て原告主張第一目録記載の不動産の内(イ)(ロ)(ハ)の各不動産及同被告徳寿の関係に於て右不動産の外前記目録記載の(ニ)(ホ)の各不動産が原告の所有であることが確認されたのであるが右判決の確定したのは昭和二十三年三月十八日であり、原告は昭和二十三年末頃より右建物につき被告等はその屋根等を損壊し瓦を持去つたと主張し被告等は之を否認するのでこの点につき判断する。

成立に争いのない甲第十七号証の一乃至五、乙第一号証第十三号証及証人阪部誠同辻竜の証言並検証の結果を綜合すると、右不動産の内、(イ)木造瓦葺平屋居宅十七坪は現存するが、屋根はルーヒング葺であつて瓦は無く同建物東端五坪程を被告等の住居に供し、その余の部分は物置小屋の様な状態で床はなく朽ちはてゝ居りその中には古材木麦藁等が積み重ねてある状態である、(ロ)木造瓦葺平屋居宅十六坪二合五勺及(ハ)木造瓦葺平屋建工場六坪は現存しないが嘗て存在した痕跡があり(ハ)の建物は昭和二十三年五月十八日現在実在していたこと明かであるがその後昭和二十五年九月三日ジエーン台風により破損しその後全壊したことが認められる、(ニ)木造瓦葺平屋建工場六坪、(ホ)木造瓦葺平屋建工場十坪五合については嘗て実在した痕跡もなく証人辻竜は昭和二十九年四月二十六日の証言に於て三棟の建物の外に十六坪の養鶏場と六坪の牛小屋があつた旨証言しているが右(ニ)(ホ)に該当する建物が存在したかどうか明かでなくその他右建物の存在を立証する証拠は見当らない、この点に関する原告本人の供述は信用出来ない、そこで右(イ)(ロ)(ハ)の建物についてその屋根瓦を搬出したとの原告主張についても、之を立証するに足る証拠は見当らない反つて証人辻竜の昭和三十年十二月七日の証言によると屋根瓦等は昭和十六年以前に於て当時の所有者である加納徳之助が訴外栗原某に対する借金の返済に当てた事実を認めることが出来る依つて原告の此点に関する請求は何れも理由がない。次に動産の点については、これ等の物の所有権が原告にあることについては前記甲第一号証の一に依り明かであるがこれ等の物を被告等が何日持去つたかについては何等主張するところがなく又第七の小倉式プレナー十三吋一台を昭和十八年頃据付けた事につき前出甚六の証言ある外検証の結果現存しているタンス二個、自転車一台、皮ベルト一本、金剛砥石三個、削台三個以外の物については和歌山市出水南敬之方へ被告徳寿が昭和二十三年五月七、八日頃より十五、六日頃迄の間に、建具材料機械類等を搬入した形跡は認められるがその品名数量については明確でない、又右のブレナー一台の価格及その他の物品の価格についても原告に於て何等立証するところがなく動産類を被告等が搬出して損害を蒙らしめたと主張する原告の請求は認め難い、その他原告の右証言を覆す証拠はない。

次に、傷害に対する医療費及慰謝料の点並被告等の正当防衛の主張について判断する

公文書である甲第三号証乃至第十号証第十二号証第十三号証甲第二十九号証、証人加納栄の証言の結果真正に成立したものと認める甲第十一号証甲第十四号証の一乃至十二、証人辻竜同加納栄、原告本人訊問の結果を綜合すると、昭和二十三年五月二十四日午前十一時頃原告は和歌山地方裁判所執行吏中村正雄と共に、家屋明渡等の強制執行の目的を以て、和歌山市黒田一四一番地加納徳之助方に到つたとき被告徳寿は原告に向つて「お父さんをどうするのか」といい、二言、三言原告と言葉を交している中突然徳寿は刺身包丁を振上げて原告の頸の辺りに切りつけたので執行吏の中村は之を仲裁しやうとしたが刃物を振つているので寄付けずその場にいた被告南章子に仲裁を依頼して交番に駈けつけたが、被告南章子は仲裁に入らず反つて長さ五尺位の竹棒で徳寿に加勢し原告を殴りつけ、被告徳寿、章子は共同して原告の頭部顔面、頸部等に切付け又肩胛部を撲り付けなどしこのため原告に治療四週間を要する傷害を与えた、原告はこのため同日より和歌山県立医大附属病院に入院し、同年六月二日迄同院に治療を受け、入院料その他医療費合計四千百五十六円を支払つたこと、原告は徳之助の長男であり、被告等は夫々原告の弟妹に当るものであるが、原告は十五才の頃より家出しその後時々父の家へ帰つて来たが予てより弟妹等と仲が悪く又父親とも折合はず家屋敷について裁判を求めたり父徳之助の首を締めたりして警察沙汰になつたこともあり徳之助は原告の将来を案じ、家屋明渡の執行日である前記五月二十四日の前夜、被告徳寿に向つて、原告の様な乱暴者は他人に迷惑を掛けても済まないし、安心して生活が出来ないから見付け次第殺してくれと依頼し、徳寿は之を引受けその結果右証言のやうな傷害事件を惹起したことが認められ被告等の傷害行為当時原告の不法行為が現存したものではなく従つて被告等の行為が己むを得ずして為したるものと認め難いから被告等の正当防衛の主張は援用出来ない。

依つて被告徳寿及章子は原告の傷害による医療費は之を支払う義務があり、又諸搬の事情を斟酌し原告の傷害による慰謝料の額は金五万円を以て相当とするから合計金五万四千百五十六円及び本訴状送達の翌日であること記録上明かである、昭和二十六年五月二十六日以降完済に至る迄年五分の割合による遅延損害金の支払を命じ、原告の被告加納寿美子に対する請求並被告徳寿同章子に対するその余の請求はすべて理由がないから之を棄却することとし訴訟費用の負担については民事訴訟法第八十九条第九十二条第九十三条仮執行の宣言につき同法第百九十六条を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 山田常雄)

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